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ラマグナらの銃器工具痕鑑定批判 (16)  [鑑定批判]

D. 証言は従来の基準を満たすか?

 工具鑑定の一般原理について異議を申し立てる前に、被告側は、鑑定人の手法と結論が、歴史的に用いられてきた従来の基準にすら適合しているのかを初めに検証する必要がある。鑑定証人は、特定の銃器が特定の弾丸を発射したとする結論を、従来の銃器の固有特徴をもとに結論している。そして、その結論が従来の手法で導くことができるものと証言しているが、それは正当な主張なのか?

 プロチロ事件で被告側は、政府側が示した証拠は従来の基準に照らしても不十分であると主張した。なぜなら鑑定証人が「一致」の結論を下す上で、薬きょうに残されているどの痕跡を用いたのかを明らかにしていないからである。鑑定証人が、発射銃器を特定可能な固有特徴が一致していることを確認せずに、同型の銃器であればすべての銃器で共通して付けられる型式特徴が一致したことを根拠に、結論を導いているかもしれないのだ。実際、政府側の鑑定専門家は、ドーバート審問の際に、「結論を導くにあたって、マガジンリップ痕、蹴子痕と抽筒子痕の3種類の痕跡を用いた」と証言した。ハッチャーの教科書によれば、これらの痕跡は発射銃器の型式を決定する際に役立つ痕跡であり、個別の銃器を特定する際には使えない痕跡とされている。そして、鑑定証人はこれを承知していた。

 この鑑定証人は、比較顕微鏡を用いてこの結論を得た際に、一致痕跡の比較写真は一切撮影しなかったことを認めている。痕跡を比較した左右の物件の比較写真は、この分野で従来から撮影されてきた。事実ハッチャーの教科書には、1921年のサッコ・ヴァンゼッティ事件の裁判で使用された比較写真が掲載されている。その写真では、打ち殻薬きょうの同心円状の遊底頭痕が明瞭に示されている。比較顕微鏡で鑑定者が確認した痕跡の一致状況を、比較写真によって正確には示すことはできない、という鑑定証人の証言をにわかに信じることはできない。また、比較写真を添付しないことは、従来の工具痕鑑定法の基準に合わない。

 当初、比較写真は被告側に一切提示されなかったが、鑑定証人は、ドーバート審問の前夜に比較写真を撮影し、審問の際に提示した。その比較写真には、「一致」の根拠となった同心円状の痕跡の対応状況を示すものは含まれていなかった。このことから、鑑定証人の証言は、従来の工具痕鑑定の基準から考えても不完全なものであり、証拠から排除するように被告側は申し立てた。この申し立ては却下されたが、全く同じ主張を陪審員の前でも行った。その際には、ドーバート審問で鑑定証人が示した比較写真と、ハッチャーの教科書にあるサッコ・ヴァンゼッティ事件の証拠写真をともに提示した。これによって、鑑定証人の証言が不十分であることを、陪審員に対して明確に示すことができた。
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ラマグナらの銃器工具痕鑑定批判 (15) [鑑定批判]

C. 最新の製造法の影響 承前

 プロチロ事件で問題となった口径0.25インチのレイブンのような、安価で入手しやすい銃器では、製造時に手作業はほとんど行われない。それだから安価なのである。この種の拳銃の主要部品は切削加工されていない(レイブンのスライド内に埋め込まれたブリーチブロック(遊底頭部品)が唯一の例外である)。この点が、伝統的な製造法で製造された銃器と大きく異なる点である。部品は、融解された金属に高圧をかけて型に高速に流し込むダイキャスティングによって製造されている。部品は切削加工も、人手によるやすり仕上げもされないため、部品の固有性が乏しく、発射痕の比較鑑定の手がかりが少ない。製造時の欠陥や型の摩耗に伴う製造部品のばらつきがあるかもしれないが、それも最新の品質管理技術によって最小限に抑えられている。

 ジェニングス銃器とブライコ銃器の創業者であるB.L.ジェニングスは、1998年にPBS/WGBHで放映された「フロントライン」という番組におけるインタービューに、銃器の製造法に関して次のように答えている。なお、彼の父親は口径0.25インチのレイブンを製造していた(レイブン銃器の創業者)。

 『コルトやスミス&ウェッソンは、我々より古い考え方をしている。彼らは、部品がうまく組み合うようにやすりをかけながら、銃を1丁ずつ仕上げている。我々は、すべての銃器に共通して使えるように部品を設計し、すべての銃器で共通に使えるように、まったく同一の部品を製造している。したがって、500個の撃針を製造すれば、それは500丁の銃器すべてに組み付けられるし、それらの銃器の間での部品交換だって自由自在さ。』

 部品の互換性を完璧にするには、きつめの部品を緩めの銃器に結合することを可能としなければならず、その逆も可能としなければならない。このことはとりもなおさず、その銃器から発射された打ち殻薬きょうに残される痕跡の変動が大きいことを意味する。この場合、同一銃器による発射痕の間の変動が大きい一方で、同型だが異なる銃器の間の発射痕の変動は小さくなる。部品の互換性を高めるために、部品がゆるく組み付け可能となることから、この種の銃器では、発射痕から発射銃器を特定する際に用いることができない、偶発特徴に分類される発射痕跡が増加する。その一方で、銃器固有の痕跡は乏しくなる。
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ラマグナらの銃器工具痕鑑定批判 (14) [鑑定批判]

C. 最新の製造法の影響

 プロチロが依頼した鑑定専門家(ラマグナ)は、公判前に提出した宣誓供述書と、引き続いて開かれたドーバート審問の証言で、従来の工具痕鑑定手法の信頼性に対して、最新の製造法が与える影響について分かり易く述べた。最新の製造法を用いて製造された銃器から発射された弾丸と薬きょうや、その銃器に装填してから脱包した実包に残される痕跡を用いて鑑定人が行う、銃器の識別作業に大きな影響を与えることを説明した。なぜなら、発射銃器を識別するために用いる固有特徴痕は、手作業によって付けられることが多いのだが、最新の製造技術で製造された部品は、手作業による加工をほとんど受けることなく、それぞれの銃器に組み付けられるからである。

 最近は、銃器の設計、製造から組み立てに至るまで、計算機制御された製造プロセスが用いられ、製造された部品は手作業による加工を全く施さないか、手作業が最小限となっている。最近の銃器の大半は、金属射出成形法、ダイキャスティング、インベストメントキャスティング(精密鋳造法)あるいは自動化金属プレス法によって製造されており、人手による仕上げ作業はほとんど必要としていない。製造法によっては、工具の摩耗等による固有特徴が出現する可能性は残されているが、そのような変動はますます小さくなってきている。統計的工程管理技術や統計的品質管理技術によって、製品ごとの変動はさらに小さくなっている。新しい材料の導入により、以前見られたような、銃器を使用することによって発生する摩耗にともなう固有特徴も出現しにくくなっている。

 最新の製造技術は、銃器鑑定以外の法科学鑑定分野にも影響を与えている。文書鑑定の分野を例にとると、印刷物から使用した電子タイプライターを判別する際の困難さが増している。印字部品であるデイジーホイールは射出成型で製造されており、その個体差が小さくなってきているからである。
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ラマグナらの銃器工具痕鑑定批判 (13) [鑑定批判]

B. 工具鑑定とは何か

 これまで工具痕鑑定の一般原理については、ほとんど論争がなかった。その鑑定原理を突き詰めると 、そのほとんどはハッチャー大佐(実際はハッチャー少佐)が1935年に著した古典的教科書を根拠にしていることが分かる。そのことは、被告側専門家(ラマグナ)の最初の宣誓供述書にも示したところであり、プロチロ事件のドーバート審問と裁判の両者で行った政府側の鑑定証人に対する反対尋問でも明らかにしたところである。

 特定の実包が特定の銃器によって発射されたものであるとする鑑定専門家の意見が、すなわち「工具痕鑑定」である。「工具痕」とは、鋳造や鍛造された部品を機械加工したり、板材を打ち抜いた後に手作業のやすり仕上げをされて、個別の銃器の部品として仕上げられる過程で部品に付けられる痕跡をいう。

 銃器を発射すると、弾丸や薬きょうの表面に痕跡が残されるが、銃器鑑定者はこれらの痕跡を歴史的に3分類してきた。1種類目の痕跡は「型式特徴」であり、特定の型式の銃器に共通した痕跡である。口径0.25インチのレイブンのような自動装填式拳銃では、抽筒子痕や蹴子痕のいずれかあるいは両方が打ち殻薬きょうに付けられる。これらの痕跡によって発射拳銃がスミス&ウェッソンやコルトではなく、レイブンであると分かる。ただ、型式特徴からは、発射銃器を特定することはできない。

 2種類目の痕跡は、銃器の固有特徴として知られるものである。ある銃器の撃針痕の先端が欠けているとすると、その銃器によって付けられる撃針痕は、その銃器特有のものであり、他の銃器によって付けられる撃針痕とは区別できる。

 3種類目の痕跡は、偶発特徴として知られるものである。この種類の痕跡は、ある銃器から発射された特定の弾丸や薬きょうにのみ付けられる痕跡で、その痕跡がその銃器から発射されたそれ以外の弾丸や薬きょうに再現されることのない痕跡である。この種の痕跡は、発射銃器の型式の判定にも、発射銃器の特定にも役立たない痕跡である。

 発射銃器を特定する上で最も重要な痕跡は2種類目の固有特徴であり、その中でも銃身の腔旋によって発射弾丸に残される旋丘痕と、薬きょうの中でも軟らかい金属で作られた雷管部分に残される線条痕が重要である。歴史的に見て、雷管面の線条痕の不規則性は大きい。なぜならば、弾丸発射時に雷管面が衝突する銃器の閉塞壁は、手作業によるやすり仕上げがなされてきたからである。このような手作業によって加工された部品の固有性は高い。それでも、薬きょうの痕跡から発射銃器を特定することは難しい。なぜなら、異なる種類の薬きょうが使用されると、同一銃器による発射痕跡も大きく変動するからである。これらの原則は、ハッチャーの教科書に記載されていることから、政府側の鑑定証人も、そのことをすぐに認めた。
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ラマグナらの銃器工具痕鑑定批判 (12) [鑑定批判]

A. 最初の準備とドーバート審問 承前

 政府が明白な根拠を示さないため、プロチロ事件の被告側は、伝統的な銃器鑑定の経験者で、材料科学と工学の専門家の宣誓供述書を提出した。そこには、最新の製造技術が採用されるようになってからは、工具痕鑑定技術も変革する必要性があると記述されていた。

 被告側の宣誓供述書には、警察官が発射したグロック拳銃の弾丸が付近にいた第3者に命中した事件で、ジョージア州法科学研究所では、どの警察官が発射した弾丸が命中したのか決定できなかった事例を添付した。この1件をもってしても、政府側の鑑定証人が主張するような、すべての銃器から発射された弾丸類には、発射銃器を特定可能な固有の痕跡が残される、という基本的な仮定がもはや成立していないことは明白であり、これはドーバート審問を開く決定的な理由となる。実際、プラザ事件でポラック判事は、FBIが資格認定している指紋鑑定人の証言には、その種の根拠が示されていないことを理由に、ドーバート審問が開始された。

 ドーバート審問で政府側は、アルコール・タバコ銃器局の鑑定専門家を呼んで証言させた。この鑑定専門家は、問題となっている証拠物件をそれまでに見たことはなく、それらが「一致」しているか否かについて何らの意見を持たない者であった。単に、工具痕鑑定の手法と、その信頼性について証言しただけである。一切の文献引用なしに行われたその証言で、この鑑定専門家は、工具痕鑑定の基本原理によれば、いずれの銃器から発射された弾丸にも、発射銃器固有の痕跡が付けられること、その鑑定手法の信頼性は100年以上にわたって裁判所で認められ、確立していると証言した。彼の証言が終わろうとしたとき、被告側は、政府側の証言は鑑定手法の健全性と信頼性を正しく伝えていない、と異議を申し立てたが裁判所はこれを却下した。続いて被告側は、この事件の鑑定を行った政府側の証人を証人席に呼び証言を求めた。その結果、「一致」の結論は、従来の工具痕鑑定手法からみても、その根拠が希薄であることが明らかとなった。

 続いて被告側の鑑定証人に、工具痕鑑定の有効性に関する一般論を証言させた。以下に示すのは、その時のドーバート審問と引き続く裁判で陪審員に向けて行った証言の概要である。
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ラマグナらの銃器工具痕鑑定批判 (11) [鑑定批判]

(5) 弾道証拠をドーバート基準で評価しようとする機運の高まり

A. 最初の準備とドーバート審問

 実務面から紹介すると、鑑定専門家の証言に対しては、公判に先立って異議申し立てができる。その場合、裁判所は、そうする義務はないのだが、通常ドーバート審問と呼ばれる公判前審問を開き、その証言の証拠価値を判断する。鑑定証人の証言の信頼性の検証法については、裁判所に自由裁量権がある。証拠が連邦証拠規則第702条の要求を満たしていることを示す責任は、証拠を提出した側が負う。それを示すためには、鑑定証人は、鑑定結果を導く上で用いた方法と、その手法の有効性を他者から広く認められていることを説明する必要がある。鑑定専門家だけがその結論を有効と考え、信頼性を主張しても、それはドーバートの基準からは不十分とされる。

 鑑定証人側が、その証言が連邦証拠規則第702条の要求を満たしていることを示したら、それに対抗する側が、そこで示された理由に反論することになる。その反論に実質的な内容があると裁判所が判断した場合に限り、裁判所は鑑定証人が鑑定に用いた手法の健全性と信頼性を検証するドーバート審問を開く。

 プロチロ事件で被告側は、公判に先立って、政府側が提出した証拠には連邦証拠規則第702条を満たしていることが全く示されていないと、次のように申し立てた。「政府側の証人は、事実を明白に証言する義務を果たしていない。その鑑定手法が健全性を欠いているか、あるいは健全な鑑定に徹する努力をしていない。政府側は、警察に送付された実包と薬きょうは、被告が逮捕された翌朝に発見された口径0.25インチ・レイブン自動装填式拳銃で試射した実包及び、撃発せずに排莢された実包と(痕跡が)「一致」したとする大胆な主張をしている。その鑑定書には、鑑定人の鑑定手法も、その手法を正当化する文献等も一切見られない。裁判所が示したのは、鑑定人の資格と鑑定結果のみであり、その結論の信頼性は示されていないことから、被告側はドーバートの基準に従ってそれを追及するものである。

 この論議が技術的あるいは法律的に正当であっても、その勝ち目は小さい。実務的には、弾道鑑定のように古くから行われている法科学鑑定の信頼性は高く、その鑑定者の証言は証拠として認められてしかるべきものとみなされているからである。そのため、それらの証拠の可否を論じる義務が、ともすれば被告側に負わされてしまう。典型例は、ハインズ事件とプラザ事件における筆跡鑑定と指紋鑑定の信頼性を、被告側が論じた例である。プラザ事件で裁判所は、鑑定専門家による指紋鑑定結果を最初は否定し、後に認めたが、それは政府が鑑定手法に信頼性があることを責任を持って示した後である。被告側が追及したことによって、一般に認められている法科学技術であっても、その信頼性を検証する必要があると裁判所が考えるようになったのである。
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ラマグナらの銃器工具痕鑑定批判 (10)   [鑑定批判]

D. 毛髪/音声/歯形痕鑑定

 鑑定専門家による毛髪、音声と歯形痕鑑定の鑑定人証言は、上に述べたものと同様の批判を受けてきた。ウイリアムソン対レイノルズ事件で裁判所は、鑑定専門家による毛髪の比較鑑定結果の証言は、ドーバートのいずれの基準をも満たしておらず、「たとえこの毛髪鑑定人が、毛髪鑑定人の間で一般に認められている手法で鑑定を行ったとしても、この事件における毛髪の比較鑑定結果は科学的信頼性を欠いている。」と断じた。この地方裁判所の決定は、別の理由から覆された。ところがその後のDNA鑑定によって、毛髪が一致したとの結論にもかかわらず、DNAが一致せず、被告の無罪が証明された。

 1996年の司法省の報告書によれば、DNA鑑定結果により28人の受刑者の容疑が晴らされた。その中の数件は、毛髪鑑定の結果によって起訴されたものであった。そのうちの1件では、鑑定者が「犯罪現場にあった毛髪が被告以外の毛髪ではありえない」と主張したにもかかわらず、DNA鑑定によって別人のものであることが証明された。

 メスのガチョウにあてはまることはオスのガチョウにも当てはまるのたとえ通り、同じ理由で被告側に不利な判決も出ている。アメリカ合衆国対バヘナ事件の控訴審で、被告は「裁判所が声紋についての鑑定人証言を除外したことは誤りであった」と強く主張した。これに対して地方裁判所は、「被告側の鑑定証人は、この分野で何らの公式な訓練も受けておらず、この分野の専門家が所属するいずれの団体にも所属しておらず、この分野で一般的に認められている標準的な音声比較の手法に精通していない」、との理由で排除した。

 最後の例とし歯形痕鑑定を挙げる。ハワード対ミシシッピ州事件で、ミシシッピ州最高裁判所は、下級審が認めた歯形痕比較の鑑定専門家証言を排除した。その理由として、歯形痕鑑定は、学会の多くの権威者が批判している鑑定手法であり、何点の特徴が合致すれば同一人の歯形痕であるかの判断基準が未だ存在しない手法であることを挙げた。
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ラマグナらの銃器工具痕鑑定批判 (9)   [鑑定批判]

C. 路上での酒気帯び検査

 メリーランド州地方裁判所は、長い間証拠価値を認められてきた路上での酒気帯び検査について、厳しい見方をするようになり、その検査結果は飲酒や酩酊状態の直接的証拠とはならないと決定した。アメリカ合衆国対ホルン事件でグリム判事は、この検査をフライの基準に照らすと、すでに一般から認められているといえる。また、証拠価値を認めた判例が積み重なっており、先例拘束の重みは大きいといえる。しかしながら、その検査を支える技術の詳細な検証が行われないままに、その証拠価値が認められてきたに過ぎない、と断じた。

 この地方裁判所の決定の根拠は、路上での酒気帯び検査と血中アルコール濃度との関連を示す十分な評価研究が行われていないことであった。「この検査法に関与している人たちには、熟練した警察官や高速道路の検査員、検察官、犯罪学者がいるだろうが、私の知る限りでは、これらの人たちの中には「標準路上酒気帯び検査」のような人間の行動検査の手法を評価するだけの力量のある人が見当たらない。こうした理由から、被告に対する路上酒気帯び検査結果が合格か不合格かにかかわらず、被告に酒気帯びの兆候が何点か認められようが、当法廷は証人による検査結果の証言を拒否する。

 裁判所は、路上酒気帯び検査で示した被告の行動の観察結果について、証人の警察官の証言を許可した。なぜならば、それらは飲酒した人物が示す兆候として、素人でも視覚的に理解できるからである。この警察官は、自らの意見が科学的、技術的あるいは特別の情報に基づいたものであるとの主張は許されず、単なる意見として被告が飲酒していると感じたと証言することは許可された。この例では、警察官の証言は、素人がその常識的判断として、相手が飲酒していると感じたとする証言と何ら変わりないものである。
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ラマグナらの銃器工具痕鑑定批判 (8)  [鑑定批判]

B. 潜在指紋鑑定

 本年(2002年)になって、ペンシルベニア州東部地区裁判所のポラック判事は、合衆国対プラザ事件の裁判で、政府側証人の指紋鑑定がドーバートの信頼性基準に適合しないとの理由から、合衆国で初めて指紋鑑定証人の証言を拒否した。ただし、その後になって、この結論は覆された。ポラック判事は最初の決定で、鑑定専門家が用いている比較手法は、政府側は裁判所で100年間にわたって検証を受けてきたと主張しているものの、ハインズ事件でのゲートナー判事の判断と同様、それがドーバートの信頼性基準を満たしていないと結論した。その後政府は、指紋鑑定の歴史と技術、鑑定者の訓練、技能検定、FBIの資格認定鑑定人に対する毎年の技能検定試験、さらには全世界の指紋検査で用いられている標準手法について詳細な証言を行った。その結果、ポラック判事は最初の決定を覆した。

 指紋鑑定の証拠価値を認めるにあたって、裁判所は以下のような理由を述べた。指紋鑑定自体は科学ではないが、その技術の基礎は科学的であり、特に「指紋が万人不同で終生不変である」という科学的事実に基づいていることは認める。FBIで指紋鑑定者として認定されるためには、厳格な条件が求められることを理解した。その条件には、2年間のFBIの部内研修を受講し、3日間にわたる認定試験に合格しなければならないことを了解した。また、FBIが資格認定した鑑定者の、この7年間の技能検定試験の試験結果から、その誤鑑定率は1パーセントであることが示された。被告側の鑑定証人によれば、技能検定試験の要求水準は本来あるべきものより易しいとのことではあるが、被告側が示した証拠の中には、FBIが資格認定した鑑定者の技術水準が低いことや、その鑑定の誤鑑定率が高いことを示すものはなかった。

 裁判所は、指紋鑑定技術の検証が不十分であることは認めたものの、その技術が確実に検証されるまでの間、指紋鑑定を証拠から排除するほど危険性があるというところまでは、弁護側が裁判所を説得することはできなかった。裁判所は、『「最良」は「良」の敵』とならないための決定をした。被告側が、指紋鑑定が誤鑑定となった例を示していれば、裁判所はこれとは違った決定を下したであろう。端的に言って、ポラック判事は変心したのだが、それは指紋鑑定の信頼性と有効性について政府側に確たる根拠を要求する前ではなく、政府側がそれらの資料を準備した後である。ポラック判事のプラザ事件での決定以前に、インディアナ州とプエルトリコの地方裁判所は、被告側の異議申し立てにもかかわらず、指紋鑑定を証拠として認めていた。

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ラマグナらの銃器工具痕鑑定批判 (7)  [鑑定批判]

(4) 銃器工具痕以外の法科学鑑定証言の証拠能力

 これまで被告側は、様々な分野の法科学証拠に関する鑑定人証言に対して、裁判所がドーバートの基準に照らすことを要求してきた。以下に、その成果を示す。それらの法科学証拠には、筆跡鑑定、潜在指紋鑑定、路上での酒気帯び検査、音声鑑定、毛髪比較鑑定、歯形痕鑑定が含まれる。これらのいずれの鑑定分野も、それらの鑑定技術の基本的前提や技術の有効性を評価するために必要な、厳密な体系的研究はなされて来なかった。ところが、いずれの分野においても、そのような研究ができない理由は見当たらないのである。裁判所はこれらの鑑定分野に対して、鑑定の有効性をもっと示すよう要求するようになった。

A.筆跡鑑定
 筆跡鑑定に対しては、現在多くの裁判所が、その鑑定人証言に対して制限を設けている。それにもかかわらず、鑑定人は二つの筆跡の間の比較鑑定を行ってきた。これに対して裁判所は、問題となっている筆跡の筆者が誰であるかについて、鑑定人が証言することうを許可していない。

 合衆国対ハインズ事件でゲートナー判事は、FBIの文書鑑定人が、犯罪現場で発見された犯罪記録メモの筆者について、証言することを許可しなかった。裁判所は、この証人の証言は、ドーバートの信頼性の基準を満たしていないと、次のような理由を挙げて結論した。「この分野の有効性を検証した研究に、意味のあるものや納得できるものは一切見られない。この分野の技術は、裁判所の外ではほとんど利用されないものである。同業者から十分な検証を受けた論文も見られない。」鑑定人の鑑定結果に含まれる誤鑑定率、すなわち正しい結論が得られる鑑定回数と、誤った結論となる鑑定回数の比が不明である。また、一般に認められた標準的な手法が存在しないため、標準的な手法による鑑定の有効性を検証することができない。どの程度の類似性があれば、それらの筆跡が同一人のものと結論できるのか、どれだけ筆跡が異なれば異なる筆者の筆跡と結論できるのかについての統一見解もない。

 裁判所は、この筆跡鑑定と、目撃者が一対一の方式で容疑者を選択する手法との比較考察を行った。この容疑者選別手法は、(整列させた数人の中から容疑者を選別する手法と比較して)、見せられた人物を犯人と強いる性格が強すぎることから、認められないものとなっている。裁判所は、同様の筆跡を多数並べた時に、筆跡鑑定専門家が、被告の筆跡を「強盗犯罪メモ」と最も類似した筆跡であると選び出すことができないことを確認した。このことから、その証言は本質的に信頼できないものであるとした。

 裁判所は、裁判で問題となっている強盗犯罪メモと被告の筆跡との間で、素人の陪審員が、その人たちの経験に基づいて、筆跡の類似箇所を指摘できるようなら、証言を許可するとした。その際、鑑定人が選び出した二つの筆跡は、陪審員に先入観を与えないように、一致しているとも一致していないとも事前情報を与えずに陪審員に比較させ、陪審員の能力の範囲内で、筆跡が一致していると結論できることを要求した。同様に、ネブラスカ州とニュージャージー州の地方裁判所は、筆跡鑑定と文章鑑定の鑑定人証言が、いずれもドーバートの有効性と信頼性の基準に適合しないとして、その証言を拒否した。
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