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アディーナ・シュヴァルツ教授による銃器工具痕鑑定批判概要 (21) [鑑定批判]

(7) 銃器工具鑑定には科学的信頼性が欠けている 承前

 「『銃器工具痕鑑定には、ランダムに選択した工具によって、犯罪現場の工具痕にどれだけ類似した工具痕を付けることができるのか』を明らかにする統計的・経験的基礎が必要である。この分野では、鑑定者は結論の確実性を示そうとしない。確実性が100%であるとも、それ以下であるとも語らない。」と述べた裁判官がいる。しかしながら、この裁判官も、統計的根拠のない鑑定は信用できず、証拠として認められない、というところまでは踏み込まなかった。「鑑定人は、自らの意見には相当の確実性があるとのみ主張するように。」と述べるにとどまった。

 さらにこの判事は特定の証言を、「銃器工具痕鑑定者の間で合意されているものではない」、と拒絶もしている。「銃器工具痕鑑定分野では、統計的信頼性と論理的信頼性を区別すべきもので、それらは一致しない」、としたこの判事の決定は、論理的に矛盾しており、今後も悪しき判例となるが、弁護側にとっては極めて有利な決定である。

 別の事件で、「鑑定結果はドーバートの基準から証拠価値を認めるが、鑑定人は、『この世のすべての銃器を除外できる』という文言を結論から除外しなさい。『特定の弾丸と薬きょうが特定の銃器から発射された可能性は、銃器鑑定分野で妥当とされる確実性をもって主張できる』としなさい。」と決定した判事がいる。この判事は、痕跡鑑定の結論に、統計的・経験的基礎が必要であることを理解できないでいる。そして、「この鑑定技術の現在の発展段階では、個々の鑑定で誤り率を示すことは現実的ではない。痕跡パターンは確率計算に適したものではない。弁護側の要求は、この鑑定技術の範囲を超えている。陪審員に統計的モデルを提示する方法を探究することは、銃器鑑識に携わる専門家の至高の目標として課せられたものである。」と論じた。
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アディーナ・シュヴァルツ教授による銃器工具痕鑑定批判概要 (20)  [鑑定批判]

(6) どちらの手法が優れているのか?

 従来の手法とCMSのいずれの手法も、銃器工具鑑定に十分な統計的・経験的根拠を示していない。結局のところ、銃器工具痕鑑定の分野に、十分な統計的・経験的根拠は存在しない。従来の主観的鑑定手法は、統計や数学的研究の必要性を否定している。一方のCMSも極めて不完全な理論であり、この問題に対する正しい取り組み方ではない。

(7) 銃器工具痕鑑定には科学的信頼性が欠けている

 米国学術研究会議(National Research Council)の委員会報告書(NRC Report)は、銃器工具痕鑑定に、しっかりとした統計的基礎がないと明言している。そして鑑定結果は、確実な統計的基礎に基づいて示すべきであると提言している。さらに、鑑定者の主観に基づく鑑定結果なのに、当該の工具痕が由来する銃器として1丁の容疑銃器を特定し、この世に存在するその他すべての銃器が除外できると結論し、その結論の誤り確率は0であるとの非現実的な主張をしている、と述べている。

 報告書の批判は当を得ているのだが、その批判は手ぬるいものである。銃器工具痕鑑定には統計的基礎が欠落しており、たとえ「容疑銃器以外のこの世のすべての銃器を除外できる」という主張が取り下げられたとしても、その鑑定が非科学的だというそしりは免れないのである。
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アディーナ・シュヴァルツ教授による銃器工具痕鑑定批判概要 (19)  [鑑定批判]

(5) 連続一致条痕の判断基準 承前

 さらに付け加えると、CMS基準は、工具痕関連の代表的データーベースから導かれたものではない。CMS理論の根拠となっているデーターは、主に口径0.38インチ・スペシャル型のスミス&ウェッソン回転弾倉式拳銃で発射された38スペシャル弾丸で、その他数種類の拳銃と弾丸の組み合わせのデーターを考慮しているに過ぎない。それなのに、CMS基準がすべての拳銃と実包の組み合わせ、さらにはすべての工具によって付けられる線条痕についても成立するかのように主張している。

 さらに言わせてもらうと、公表されている研究結果は、異なる銃器によって発射された2個の弾丸の、特定の1条の旋丘痕を比較対照し、その特定の1条の旋丘痕でCMS基準を上回る連続一致条痕が発見されれば、それらが同一工具に由来する痕跡と結論しても誤鑑定とならないとしている。しかしながら、見逃し鑑定を防止するために、すべての旋丘痕で認められる連続一致条痕の総数を基準としていると述べている鑑定者もいる。それにもかかわらず大半の研究は、単一の旋丘痕に認められる連続一致条痕の本数がCMS基準を満たせば誤鑑定は発生しないとする視点で行われている。すべての旋丘痕で認められる連続一致条痕本数に対してCMS基準を適用しても、誤鑑定が発生しないのかを明らかにしている研究はない。
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アディーナ・シュヴァルツ教授による銃器工具痕鑑定批判概要 (18)  [鑑定批判]

(5) 連続一致条痕の判断基準 承前

 CMSの抱えるもう一つの問題は、CMSの擁護者ですら問題と考えているものであるが、CMSの基準は固有特徴には適用できるが、準型式特徴には適用できないというものである。その基準を固有特徴痕ではなく準型式特徴痕に適用してしまうと、誤鑑定につながる。一方、CMSは固有特徴痕と準型式特徴痕を区別するための基準ではなく、この区別を助けるための手段でもあり得ない。

 さらに問題なのは、CMSの基準を業務に適用する上での客観的基準が存在しないことである。CMSの基準を適用するためには、連続的に一致している線条痕の本数を数える必要があるが、線条痕の本数を数える作業は、そもそも主観的な作業である。2名の鑑定者の間で、痕跡にみられる線条痕の総本数と対応線条痕本数が異なることは、ごく当たり前である。線条痕の本数と一致条痕の数え方に統一見解がないということは、個別の鑑定では、現場工具痕と対照工具痕が同一区具に由来するか否かについての個々の鑑定者の主観に基づいて、CMS基準が適用されていると考えるべきであろう。この傾向は、反対意見を押さえつけるためにニコルスらによって行われている主張、「CMSは従来の鑑定法に取って代わるものではなく、鑑定者がすでに直観によって得ている結論の根拠を分かりやすく示す手段である」というものによって一層強くなっている。
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アディーナ・シュヴァルツ教授による銃器工具痕鑑定批判概要 (17) [鑑定批判]

(5) 連続一致条痕の判断基準 承前

 ニコルスのCMSの基準に対する視点は、犯罪現場の工具痕と容疑工具の工具痕との間の類似性が極めて高く、実用上、それらが同一の工具による痕跡と考えることができる閾値を与えるものでしかない。そのように考えれば、CMSは、従来の主観的手法より統計的・経験的な基準を銃器工具痕鑑定分野に持ち込む試みとして評価できる。しかしながら、一部の判事が主張するような、CMSが広範囲に採用されるようになれば、銃器工具痕鑑定にまつわる科学的問題を一挙に解決できる、という見方は誤りである。CMSは、それに必要とされる統計的・経験的基準を確立する試みとしては、全く不完全なものなのである。

 大きな問題点の一つは、CMSは線条痕について適用できる基準に過ぎず、圧痕には適用できない。これは、薬きょうの痕跡の識別に用いられる撃針痕と閉塞壁痕がともに圧痕であることから、鑑定基準としては大きな制限となっている。これまでニコルス本人も、その他の人もCMSは線条痕には適用できるが圧痕には適用できないとしてきたが、最近ニコルスは自説を覆し、CMSは線条痕と、圧痕ではあるが線条痕の形態をしている閉塞壁痕に適用できると述べている。銃器工具痕鑑定者のクリスティン・トマセッティ(Kristin Tomasetti)は、CMSは線条痕(擦過痕)にしか適用できない。粒状の表面をしている閉塞壁痕を含め、圧痕にはCMSは適用できない、と述べている。

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アディーナ・シュヴァルツ教授による銃器工具痕鑑定批判概要 (16) [鑑定批判]

(5) 連続一致条痕の判断基準 承前

 CMS理論が従来の主観的手法より優れているという主張を押さえつけ(そして、銃器工具鑑定がフライの基準を満たしていないという主張を解消するため)、ニコラスは、「CMSは従来の手法より客観性が高い手法ということではなく、鑑定者が線条痕を観察している際に行っている作業を定式化したものに過ぎない。」と主張した。さらにニコラスは、「CMSは、異なる工具に由来する工具痕の間にみられる最良の一致条痕の概念を標準化する試みである。」と説明している。

 CMSが従来の手法より優れているとする主張と、同等のものとする主張の両者がともに正しいわけはありえない。ニコラスが自ら認めているように、伝統的な鑑定手法では、「『異なる工具に由来する工具痕との間にみられる最良の一致条痕』が、鑑定者ごとに異なることは驚くに当たらず、個別の鑑定で、鑑定者ごとに結論が『不明』と『一致』に分かれてしまうことも、必ずしも想定外のことではない。」。そこで、CMSと従来から行われてきた鑑定法とが異なる手法ではないとすると、これまでの伝統的手法による二人の鑑定者による鑑定結果が相違したとき、いずれの鑑定者も自らの鑑定結果の正当性を、CMSを利用して主張することができることになる。一方で、CMSが鑑定手法の標準化に貢献できるとするならば、伝統的手法による二つの鑑定結果のいずれが正しいものかの結論を下せるような、厳密性のある基準になった場合であろう。「痕を見れば結論は自ずと出る。」式の伝統的手法よりCMSの方が客観的な基準とならなければ、見解の分かれている鑑定結果のどちらが正しいものであるかを、CMSによって決着させることはできない。ニコラスには、CMSがこのような厳密な基準になりえるという視点に欠けている。
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アディーナ・シュヴァルツ教授による銃器工具痕鑑定批判概要 (15) [鑑定批判]

(5) 連続一致条痕の判断基準

 ビアゾッティとマードックは、1997年に線条痕に関する連続一致条痕(CMS)の判断基準を提案した。CMS基準では、工具痕を3次元の物体表面形状ととらえたとき、犯罪現場の工具痕と対照工具痕が同一工具に由来するものと結論するための判断基準は以下のとおりである。すなわち、「工具痕の1箇所で6本の連続一致条痕が認められた場合、あるいは相対位置関係が等しい2箇所で、少なくとも3本の連続一致条痕が認められた場合」である。また、工具痕を2次元的な表面画像ととらえたときは、「工具痕の1箇所で8本の連続一致条痕が認められた場合、あるいは相対位置関係が等しい2箇所で、少なくとも5本の連続一致条痕が認められた場合」である。

 連続一致条痕の判断基準は、伝統的な主観に基づく鑑定手法を批判してきたビアゾッティによって開発された。ビアゾッティは1950年代から、「銃器鑑定には、同一銃器による発射痕であるとの結論を導く上で、事実に基づく統計的データーが全く欠落している。」と批判を開始していた。彼は次のように書き残している。「我々が今の状態で良しとしてしまえば、統計的データに基づき同一工具痕を識別するための客観的な判断基準の開発は行われなくなり、銃器工具痕鑑定は、個々の鑑定人の直観に頼っている現在の技芸的な状態にとどまり続けるだろう。」

 ところがCMS基準は、これまでの伝統的手法に対抗するものと受け取られ、広範囲の銃器工具痕鑑定者から批判を受けることとなった。銃器工具痕鑑定者の中で、CMS批判の旗頭の一人であるシュテファン・バンチ(Stephen G. Bunch)によれば、「アール・ビアゾッティが1950年代に独自の異同識別判断基準の研究を行って以来、法科学的銃器鑑定の客観的手法と主観的手法に関する論争が行われてきた。特に、弾丸の発射痕の連続一致条痕の本数を数えることに対して論争となった。」とのことである。
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アディーナ・シュヴァルツ教授による銃器工具痕鑑定批判概要 (14) [鑑定批判]

(4) 伝統的な主観的鑑定手法 承前

 銃器工具痕鑑定者は、自らのの鑑定が科学的であることの根拠として、「AFTEの異同識別の理論」に基づいていることを挙げる。ところがAFTEの鑑定理論には、銃器工具痕鑑定が立脚すべき統計的・経験的根拠がないことから、その鑑定の科学性の根拠とはならない。AFTEの異同識別の理論は、「犯罪現場の痕跡と対照痕跡との類似の程度が、異なる工具によって付けられた痕跡の間に認められる最も良好な類似程度を上回っており、かつ同一工具によって付けられた痕跡の間に認められる類似性と矛盾しない場合には、それらが同一工具による痕跡と結論できる。」というものである。ニコラスは、「異なる工具によって付けられた痕跡の間に認められる最も良好な類似程度」がどのようなものであるかの統一見解はないことを認めている。したがって、AFTEの鑑定理論が、実務における鑑定者の判断に全く役立たないにもかかわず、ニコラスはその鑑定理論が空虚なものであることを認めようとしない。

 ニコラスとは異なり、「彼女(訳注:アディーナのこと)が主張するように、この鑑定理論はトートロジーであり、実際の鑑定では、個々の鑑定者が自らの基準で判断することになる。」と認めた判事がいる。また、「銃器鑑定における鑑定者の意見は極めて主観的であり、鑑定者が『十分な対応条痕がある』といっても、その基準は結局のところ曖昧である。」とした判事もいる。
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アディーナ・シュヴァルツ教授による銃器工具痕鑑定批判概要 (13) [鑑定批判]

(4) 伝統的な主観的鑑定手法

 銃器工具痕鑑定者が法廷で行う証言のスタイルで多いものは、白髪交じりの高名な学者先生の証言と同様で「私の意見は、私のこの分野における長年の経験に基づくものである。」というお定まりのものとなっている。犯罪現場の工具痕を付けた工具の特定は、それぞの鑑定者の心中にある「工具痕が互いに類似しているから、それらの痕は同一の工具によって付けられたものであろう。」という曖昧な主観に基づいた結論である。両者の痕跡にどの程度の、あるいはどのような類似性があれば、同一工具の痕跡と結論できるのかを明確にしようとする試みは一切見られない。また、種々の形状の工具痕を顕微鏡で観察し、特徴痕の出現状況に関するデーターベースを作成しているわけでもない。いみじくもビアゾッティは、「このような主観的な鑑定を続けていていは、同一工具に由来する痕跡と、異なる工具に由来する痕跡との区別を正確に行う判断基準を策定するために必要な統計的データを、我々が持っていないことを認めていることになる。」と語っている。また、「科学的知識体系に基づいた判断を行わずに主観的鑑定を続けていくことは、鑑定の科学性を損なうことになる」と批判している鑑定者もいる。
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アディーナ・シュヴァルツ教授による銃器工具痕鑑定批判概要 (12) [鑑定批判]

(3) 銃器工具鑑定には統計的・経験的基礎が欠落していること

 銃器工具痕鑑定が3つの欠点を抱えていることは前述のとおりであり、信頼性のある銃器工具痕鑑定の結論は、本来確率的表現がなされるべきものである。また、準型式特徴と固有特徴の区別が難しいことから、異なる工具によっても類似した工具痕が付けられることがあることは認めなければならない。その一方で、同一工具によって付けられた痕跡も完全に同じではない。したがって、二つの類似した工具痕が、同一工具に由来するものか、異なる工具に由来するのものかは、確率的な回答しかできない問題である。犯罪現場に残された工具痕を付けた工具と同一型式の工具をランダムに選択し、その工具によって犯罪現場に残された工具痕とどれだけ類似した工具痕が付けるのだろうか?特に、近接した順番で製造された工具が用いられた場合、それらの痕跡はどれだけ類似しているのだろうか?

 銃器工具痕鑑定者は、痕跡の異同識別の結論が確率的であることを暗黙に否定し、犯罪現場の工具痕は容疑の工具によって付けられたものであり、この世に存在するそれ以外のすべての工具は、犯罪現場の工具痕を付けた工具ではないと断定する。ロナルド・ニコルスは弁護人からの質問を受けた際に、「犯罪現場の工具痕が容疑の工具によって付けられたものと断定せずに、容疑の工具以外の工具によって付けられた可能性は限りなく小さく、現実的にはその可能性は無視できる。」との言い逃れの証言をするように鑑定者に勧めている。銃器工具痕鑑定者の証言は言語学上はともかく、科学的に問題がある。工具痕の異同識別の鑑定結果を、断定的に結論するにしても確率的に結論するにしても、その結論を導く上で必要とされる経験的、統計的根拠が希薄なのである。
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